kotono in midnight

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「美と殺戮のすべて」ナン・ゴールディンに学ぶ、社会運動・デモの礎

こんばんは、Kotono in midnightです。

メモ的に、取り急ぎ今日観た映画「美と殺戮のすべて」で社会運動・デモのアイデアやヒントを得たので考えたこと記録しておく。

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主役の写真家・ナン・ゴールディンは、2010年代前半に受けた手術を機に、当時処方されたオキシコンチン(鎮痛剤)中毒となり、なんとか治療して回復したサバイバーです。このようなオピオイド系の中毒性の非常に高い鎮痛剤が、利益のためにその中毒性を隠ぺいして広く処方されています。

オピオイド危機、日本ではあまり馴染みがないですが、オピオイド系鎮痛剤によって麻薬中毒者が激増し、50万人以上の死者がでている深刻な社会問題です。それまで麻薬に縁がなく、ケガや病気などの手術で処方されることがキッカケで中毒になる人が大半です。アメリカでは1990年代から(病院に)売り出されるようになり、販売元のパーデュー・ファーマ社は高い中毒性を知りながら際限なく普及させます。その会社を経営していたのがサックラー家で、この一族がえぐい。

表向きは慈善活動や美術館などへの支援をはたらきながら、裏ではオピオイド危機を操っていたわけです。世界中の名だたる美術館に寄付、寄贈し、莫大なお金を使っている。サックラー家の名前が世界中の美術館に刻まれていました。美しい美術館が、不可逆的に麻薬中毒になった被害者たちの苦悩および死によって支えられて良いはずがない。

 

ナンは、オピオイド危機に立ち向かうため「PAIN」という団体を創設し、

・サックラー家からの寄付金を美術館が拒否すること

・サックラー家の名前を美術館が消すこと

上記2点を主な目的として仲間を募り活動(アーティストとして太く筋の通った目的であることにまず感銘を受けました)

2018年からデモもするようになり、その内容が非常に効果的で考え抜かれたものでした。

ナンをはじめ、PAINのメンバーはエイズ危機に立ち向かった「ACT UP」のデモを参考に、どのように注目を集めるか工夫を凝らしました。(ACT UPについてももっと触れなければならないですが今回は割愛…)

重要なのは、注目を集めること。権力に抗うため、強烈なノイズになること。

 

PAINは、ナンの作品が展示されていて、かつサックラー家の寄付を受けている美術館でデモをする。

・大量のピルの空き容器を館内の目立つ場所や噴水でばら撒き、その場で「サックラー家は嘘つきだ!」などとコールをしてダイ・イン(寝転んでその場を占拠するデモの方法)。

・大量の処方箋(デモ用に制作、表面は処方箋で裏面は簡潔なメッセージ)をばら撒き、その場でコールをしてダイ・イン。

象徴的なのはこの上記の方法。あとアイテムとしては血まみれのような偽札をばら撒くなども。

大きな動きがあったときは、大半がその場で賛同した通りすがりの人々も参加したからとのこと。

映画では、結果的にメトロポリタンなど世界中の多くの美術館で、PAINの目的が果たされていることも映像として記録されており、ナンの喜びに満ちた表情も伺えました。

ものすごい成功体験ですよね。

 

では、この成功体験の要因はなんだったのかを紐解くことで、日本でのデモ活動にも有益なヒントが見つかるのではと思い、私の見解を記します。

まず、目的が明確であること、伝達しやすいことが成功の大きな要因だったと思います。そしてその目的は、私利私欲に基づくものではなく、社会的正義に基づくものであったこと。コールはいつも同じ、少ないパターンを繰り返す。アイテムですぐに「オピオイド危機のデモだ」と誰もがわかる。

次に、見栄えすること。語弊を恐れずに言うと、PAINのデモはかっこよかったし、アートが密接でパフォーマンスのようでした。動画に撮っている人も多く、拡散もしやすかったはずです。

そして人々の情に訴えることも惜しまなかった。差別や偏見があってはならない、金のために被害者が見殺しにされていいはずがない。"サイレント・マジョリティ"が共感しやすいメッセージも効果的に打ち出されていました。立ち向かう人こそ少ないですが、実際に被害にあった人がたくさんいたことで賛同者も多かったはず。

 

成功体験の要因をこうして紐解くと、他の問題にも当てはめることができるとわかります。

動くためには、団体として活動できる、同じ目的・志をもった仲間が必要であることが大前提なのも確か。

 

最近あまりデモに行かなくなりましたが、ナンの背中を追い、自分もデモを企てるための仲間を集めたいと強烈に思うのですが………。

まずはすべての活動が政治的である、この先の自分に繋がると信じ、目の前の出来ることから真摯に取り組みます。